皆さん,精進してますか!
よた郎です。
この記事では居合について何も知らないという方や,これから居合を始めたいという方に向けて,居合とはどんな武術なのかについて解説していきます。
なるべく難しい言葉を使わないで説明するので,気軽に読んでください。
静から動へ。鞘から刀を抜き付ける一瞬の武術……それが『居合』!
いきなりですが,皆さんは『居合』って,どんな武術だと思いますか?
僕の経験上,この質問をすると大抵の場合は,
「知ってる知ってる! なんか刀で藁を切る奴でしょ」
「えーと,相手の力を利用して投げる柔道みたいなのだっけ?」
という答えが返ってくるのがほとんどです(笑)
残念ながら,この2つは「抜刀道」や「合気道」であり,『居合』とは別の武術です。
じゃあ,居合とは何なのかというと,
基本的には,
のことを指します。
鞘に納めた日本刀を抜き放ち,相手を制圧する武術
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・
・
・
「なんのこっちゃねん!」
ていう話ですよね。
安心してください。
もう少し詳しく話します。
皆さんはマンガやゲーム,映画などで,こんなシーンを見たことはありませんか?
呼吸の音さえも聞こえそうな静寂の中,たたずむ2つの影。
その腰には,日本刀。
身じろぎ一つせず,にらみ合う二人の侍。
機を見て同時に動き,すれ違いざまに腰の刀を鞘から走らせる両者。
切られた侍は,崩れ落ちて息絶え。
生き残った者は,それを見届け静かに刀を納める。
どうでしょうか,皆さん。
なんとなくイメージできましたか。
今のは,ちょっと誇張した表現ですが,居合とは大体こんな感じの武術です。
刀を鞘から抜きながら相手を切って倒し,刀を鞘に戻す。
カッコイイですよね!
最近でいうと,映画の「るろうに剣心」なんかを想像すると分かりやすいかもしれません。
ただし,実際の稽古の際は,映画のように派手に動き回ったりはしないので,見てるだけだと結構地味かもしれませんね。
ここが変だよ日本人! 居合のレア度は『☆5』レベル⁉
そして意外なことかもしれませんが,
- 刀剣を鞘に納めた状態(非戦闘態勢)
↓
- 鞘から抜くのと同時に敵を攻撃する(戦闘行為)
↓
- 再び刀を鞘に納める(非戦闘態勢)
という一連の流れを,一つの武術として体系的にまとめたものは世界的にも珍しく,日本特有の武術といえます。
一応,西洋の剣術にも,抜きながら攻撃する技術はありますが,あくまで剣術の中の一つの技法という扱いです。
また,居合の技法には,座った状態から始まる業(わざ)が多数ありますが,これは世界どころか日本の武術の中でも珍しいです。
更に,多くの居合の流派では,『相手』も『的』も必要ない一人での練習が,居合の稽古のメインメニューとなります。
もちろん、他の武術だって,的を撃ったり,サンドバッグ打ち込んだり,シャドーをやったりなど、1人で練習することはあります。
ですが,何もない空間を決まった手順で攻撃することを稽古の基本としているのは,居合くらいのものです。
- 刀を抜いてから切って納めるまでが1セット
- 座った状態から始まる業がめちゃくちゃ多い
- 武術なのに,練習相手を必要としない
という,珍しい特徴がてんこ盛りです。属性過多です。
もはや変態的とすら言えますね(笑)
『仮想敵』と『形稽古』 少し変わった練習方法
ガラパゴス諸島の生態系のように珍しい,『居合』という武術ですが,その稽古方法も一風変わっています。
大方の流派では,『仮想敵(かそうてき)』を想定した『形稽古(かたげいこ)』を行うため,練習相手が必要ありません。
先ほど紹介した特徴の一つですね。
「いやいや,仮想敵と形稽古ってなんなのさ?」
と思った,そこのあなた。
安心してください。ちゃんと説明します。
ちょっと想像してみてほしいのですが,日本刀を持った二人の人間が,決まり事もなく自由に切り合って稽古するとします。
するとどうなるでしょう?
なんと,高確率で片方または両方が,大怪我をする,または死ぬような事態になってしまいます!
正気の沙汰ではありませんよね。
このような事態を避けるため,居合は,格闘技のスパーリングや剣道の地稽古のように,相手と組んで自由に稽古をすることは基本的にはありません。
そこで居合では,自分の周囲の空間に,想像上の敵を配置して,その敵に向かって特定の手順で攻撃を繰り出すことで稽古をします。
この時の想像上の敵を,『仮想敵』と呼びます。
範馬刃牙のリアルシャドーみたいなものですね(笑)
そして,定められた手順で攻撃や防御の動作をすることを『形(かた)』と言います。
こちらは居合に限らず,多くの日本武術に取り入れられている稽古方法です。
つまり,居合の修行者とは,
『何もない空間に敵が居ると思い込み,襲い掛かってくる妄想上の相手に対して延々と同じ動作を繰り返す,一見するとヤベー人たちの集団』
ということになります……。
もちろん冗談ですよ。
異論は認めますからね(笑)
さて,色々と脱線してしまいましたが,とりあえずのところは,次のように覚えてもらえば大丈夫です。
- 『仮想敵』=想像上の敵
- 『形稽古」=特定の手順で攻防の動作をし,稽古すること。
居合で使う刀って本物なの? 『真剣』と『模擬刀』について。
さて,さっきから何度も『刀』という言葉が出てきてますが,皆さんは,居合で使う刀って実際に切れる本物の日本刀だと思いますか?
本当に切れる刀を使っているとしたら,めちゃくちゃ怖いですよね。だって,実際に殺し合いをするための武器ですもんね。
こんなもの普段から振り回してたら超危険です。
もちろん,僕は普段の稽古で
・
・
・
・
・
・
本物の刀を使ってます。
「え!? 銃刀法違反じゃん! 犯罪者だ! 110番しなきゃ!」
と思って電話を手に取った,そこのあなた。ちょっと待って!
電話を置いてください。
実は,本物の刀を居合で使うことは,犯罪ではありません。
なので通報しないでください。
僕は,まだお巡りさんのお世話になりたくありません!!
茶番はさておき,何故,本物の刀を持っていても大丈夫なのかについて,ここから解説していきます。
日本には,『銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)』という法律があり,刃渡り15cm以上の刀,槍,なぎなたなどを『刀剣類』と定義していて,原則として所持することを禁止しています。
ですが,刀剣類の中でも伝統的な製法や材料で作られているなど,一定の要件を備えたものは,鑑定の結果によって『美術品』として認められることがあります。
そして認められた刀は,都道府県の教育委員会に美術品として登録されて『登録証』が交付されます。
ちなみに,『登録証付きの刀剣類』のことを慣例的に『真剣』と呼ぶことが多いのですが,この真剣は買ったり譲り受けたりすることで,誰でも所持することができます。
「え⁉ 誰でも真剣を手に入れられるの?」
と思った人もいるかもしれませんが,実はそうなんです。
真剣を所持するためには,警察の許可をもらったり,難しい試験を突破して免許を手に入れる必要がないのです。
あくまで,『刀に対する認定』であり『人に対する許可』ではないのです。
ただし,売買や譲渡で真剣を入手したときには,教育委員会に名義変更の届けを出す必要はあります。
あと,法律上問題ないとはいえ,雑に扱っていいわけではないので,くれぐれも安全に気を付けて管理しましょう。
そして,合法的に所持している刀を稽古に使用することは,なんの違法性もないため,居合に真剣を用いることは特に問題がないというわけです。
「へー,誰でも本物の刀を持てるんだ。
でも,値段も高そうだし,真剣を振り回すのは怖いかも。稽古に使うのはちょっとなぁ……」
と思う人もいるかもしれませんが,大丈夫です。
居合の世界には,安くて安心の『模擬刀(もぎとう)』というものがあります。
どんなものか見ていきましょう。
模擬刀というのは,日本刀の見た目ソックリに作られた合金製の道具のことです。
刃が付いていないため触っても切れないようになっています。
値段の面でも,本物の日本刀に比べると安く,真剣が『○十万円~○百万円』と高額なのに対し,稽古用の模擬刀は『3万円~7万円』程度で十分なものが購入できるのでリーズナブルです。
他にも,真剣は手入れを怠ると,すぐに錆びるのに対し,模擬刀はメッキ加工なので,あまり神経質にメンテナンスしなくても問題ありません。
このように,お手頃に見える模擬刀ですが,必ずしも安全なものというわけではありません。
まず,切っ先の部分は真剣同様に鋭利に尖っていることから,扱いには注意が必要です。
実際に,舞台の練習中に劇団員の腹に模擬刀が刺さり,死亡した事件も発生しています。
また,模擬刀は主に亜鉛などの合金でできていることから,経年劣化により強度が下がることがあります。
真剣であれば,きちんと手入れをすれば,数百年経っても強度が下がることはありませんが,経年劣化した模擬刀は,素振りをするだけでも折れることがあるそうです。
ちなみに,よく『模擬刀』と『模造刀(もぞうとう)』が混同されますが,居合の世界では,この2つは区別されることが多いです。
さっき説明したとおり,模擬刀というのは,日本刀に似せて作られた刃のついていない合金製の道具のことです。
一方,模造刀というのは,刀剣類ではあるものの,日本の伝統的な技法が用いられていないため,鑑定しても登録証が交付されない違法な刀と考える向きが強いです。
話が長くなりましたが,次のように理解してもらえれば大丈夫です。
- 登録証付きの日本刀を所持することは,違法ではない。
- 真剣を所持するのには,免許や資格は必要ないので誰でも持てる。
- 稽古では,真剣を使用することができる。
- 真剣よりも,安価で安全性の高い模擬刀という稽古道具がある。
そして,真剣と模擬刀の違いは以下の通りです。
真剣 | 模擬刀 | |
---|---|---|
材質 | 鋼(鉄) | 合金(亜鉛等) |
登録証の必要 | 有 | 無 |
資格/免許の必要 | 無 | 無 |
メンテナンス | 大変 | 楽 |
劣化 | しにくい | しやすい |
危険性 | 極高 | 高 |
値段 | 高 | 安 |
「拙者は○○流でござる……!」 実は現代にも色んな流派が残ってる。
ところで,日本刀を使うカッコイイキャラには,相応しい必殺技が必要だと思いませんか?
例えば,先ほど紹介した『るろうに剣心』の主役である緋村剣心は,『飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)』という流派の様々な技を使います。
奥義の『天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』なんかが代表的ですよね。
「いやいや,アレは映画やマンガの世界の話でしょ。
実際には,流派や技なんてあるわけないじゃん。」
なんて思ってる人はいませんか?
実は,居合や剣術には,様々な流派と特色ある業が残っているのです。
武術を含む芸事の世界では,代々にわたって継承・発展されてきた技術や思想があります。
これらは,開祖から続いてきた『流れ』だと考えられていて,そのような技術・思想など伝統を『流派』と呼びます。
こういった流派と呼ばれるものは、主に戦国時代~江戸時代にかけてたくさん誕生しました。
それらの流派の中には、失われてしまったものも多数ありますが,なんと,現代にまで残り続けている流派がいくつもあるのです。
軽く挙げるだけでも,
『夢想神伝流』,『無双直伝英信流』,『林崎夢想流』,『田宮流』,『民弥流』,『新田宮流』,『関口流』,『水鴎流』,『初実剣理方一流』,『伯耆流』,『無外流』,『立身流』,『心形刀流』,『双水執流』,『浅山一伝流』,『天真正伝香取神道流』,『神道無念流』
などの流派で居合の業が継承されています(居合以外の武術も伝えている流派も含まれてます)。
そして,これらの流派に伝わる業や形の中には,中二びょ……カッコイイ名前の付けられているものが,いっぱいあります。
例えば,
- 夢想神伝流『浮雲(うきぐも)』
- 関口流『抜打先之先之事(ぬきうちせんのせんのこと)』
- 天真正伝香取神道流『雲切之剣(くもきりのけん)』
- 心形刀流『向覃中刀(むこうたんちゅうとう)』
どうでしょう?
スタイリッシュだと感じましたか,それともビミョーだと思いましたか?
少し並べただけでも,先人達のネーミングセンスと苦労が偲ばれますね。
いずれにせよ,居合や剣術には,色んな流派や業名が残っています。
そういう伝統が残る道場に入門して,自分が数々の業を繰り出せるようになると思うと,楽しくないですか(笑)
ちょっとでも興味の湧いた人は,始めてみると面白いかもしれませんよ。
とりあえずのところは,
居合には現代でも色々な流派が残っており,様々な業が伝わっている。
ということを覚えておいてください。
「男女平等ッ!!」 老いも若きも性別も関係ない居合の試合(でも階級制はあるよ)
ところで,剣道や格闘技には,選手同士が対戦する試合というものがありますが,居合の世界にも試合ってあると思いますか?
実は,居合にも試合あるんです。
いや,お前さっき
“日本刀を持った二人の人間が,決まり事もなく自由に切り合って稽古するとします。
するとどうなるでしょう?
なんと,高確率で片方または両方が,大怪我をする,または死ぬような事態になってしまいます!”
って,言ってたやんけ!
と叫んだ皆さん。
この記事を,ちゃんと読んでいただいてありがとうございます。
嬉しいです(笑)
ですが,直接切り合いをしないということと,試合が行われるという話は矛盾しないのです。
ちゃんと説明しますね。
実は,居合に関する色々なことを取りまとめている団体の1つに,『公益財団法人 全日本剣道連盟(通称:全剣連)』というものがあります。
この団体は『剣道」,『居合道』,『杖道』を統括している団体でもあります。
・
・
・
・
・
・
そう,そうなんです!
以外かもしれませんが,実は剣道の団体が居合を所管していたりするんです。
もちろん,すべての流派が全剣連に所属しているわけではありませんが。
ちなみに,僕の持っている居合や剣道の段位は,この団体が発行しているものですよ。
そして,全日本剣道連盟では『居合道試合・審判規則/同細則』というものを定めており,これに基づいて試合をすることができます。
※参考URL(https://www.kendo.or.jp/wp/wp-content/themes/kendo/assets/library/pdf/iaido-shiai_regulations.pdf)
リンク先の文章を読んでも,なかなかイメージが付きづらいと思うので,超ザックリ要約すると,
- 制限時間は6分間
- 対戦する選手は,同時スタートで互いにに5本の業を披露する。
- どちらが優れていたか,審判が判定する。
以上です。
なんだか意外な試合のやり方ですよね。
激しく打ち合ったり,チャンチャンバラバラしたりはしないのです。
どちらかというと,フィギュアスケートや社交ダンスの試合方法に近いかもしれません。
この試合方法には,色々な弊害もあるとは思いますが,本来は命を懸けたの戦いしか成立しないはずの居合に,安全な競い合いをもたらしたということは,素晴らしいことだと思います。
そして,皆さんお気づきでしょうか?
このやり方だと,直接には身体的な接触が発生しないため,試合の際に体格や体力の影響が表れにくいのです。
他の格闘技などであれば,重量や筋肉の差により,攻撃力や防御力に開きが出てしまうため,老若男女が同等に試合をすることはできません。
大抵のスポーツでは,『男子の部』,『女子の部』,『シニアの部』なんてあったりしますよね。
ですが,居合の試合では,『80歳を過ぎたお爺ちゃん』と『大学生の女の子』が同じ大会で火花を散らすなんてことがザラにあります。
実際に僕が大学生の時には,若い女性選手が屈強な野郎どもをなぎ倒して,優勝をかっさらって行くということが毎度のように繰り広げられていました。
まさに,ちぎっては投げちぎっては投げという表現がピッタリでした。
今、思い出しても恐ろしいです……。
世の女性の皆さん!
居合を始めれば,武道の試合で男性をボッコボコのフルボッコにできるかもしれませんよ(笑)
ただし,いくら平等に試合をするとは言っても,修行した年数や努力によって練度には開きが出てきます。
『二段 VS 七段』なんてことになると,二段の人には,ほぼ勝ち目はありません。
そのため,通常の試合を行う場合は,段位別にトーナメントを組み,同じ段位同士で対戦します。
『二段 VS 二段』とか『七段 VS 七段』になるということですね。
ここの話をまとめると,
- 居合の試合は,形の良し悪しを比較する。
- 体格や年齢に関係なく対戦できる。
- 同じ段位同士で試合をする。
ということになります。
始めてみようかな辞めようかな? 居合のメリット・デメリット!
さあ,長かったこの記事も,いよいよ最後です。
皆さん,もう一息ですよ。
ここまで,居合について簡単に説明してきましたが,最後にメリットとデメリットについて語りたいと思います。
メリットとしては,まず,時間や場所に縛られず稽古できることが挙げられます。
居合は,道具さえあれば道場でなくても稽古ができます。
剣道や他のスポーツなら相手を探さないと練習ができませんが,居合なら自分ひとりで大丈夫です。
「は~い,二人組を作ってくださ~い!」
の恐怖におびえなくてもいいのです。
ボッチにも安心ですね。
広い空間も必要としませんし,大きな音や声を出さなくても練習できるので,ワンルームのアパートやマンションで,夜中に稽古することも可能です。
コロナ禍で外出が制限される昨今では,このメリットは大きいですね。
手近なところに刀を置いておけば,スキマ時間や気分転換に稽古をすることができるので,運動不足を解消することもできます。
居合では,衰えやすい膝や太ももなどの脚部や,日常生活であまり使わない肩回りの筋肉をよく動かします。
また,正しく修行すれば禅に通じるような呼吸法や精神の鍛練もできますし,健康な肉体の維持のためにも,自宅での稽古はおススメですね。
ただし,くれぐれも天井を切らないように注意してください。
大抵の人は,やらかします。
僕も何度もやらかしました。敷金が吹っ飛びました。
また,屋外で稽古する場合は,絶対に,絶ッッッッッッッッ対に公共の場所ではやらないでください。
夜中に公園で素振りをしていて,警察に通報された人の話を聞いたことがあります。
傍からは,完全なる不審者かつ危険人物としか映りません。
僕が見つけたって,110番します。
法的に問題のないような,安心・安全な場所で稽古してください。
他の人に迷惑をかけてはいけません。
その他のメリットとしては,競技寿命が長いことが挙げられます。
ちょっと想像してみてください。
例えば,80歳や90歳のお爺ちゃんお婆ちゃんが,決着がつくまで延々と相手と殴りあったり,サッカーのピッチで1試合90分間走りまわったらどうなるかでしょうか……。
「アカン! お迎えが来てまうーーー!!」
みたいな感じでしょうか(笑)
これは流石に冗談だとしても,体を動かす趣味の中には,年齢とともに継続することが難しくなるものが多いのは事実です。
もちろん指導者として後進を育成したり,試合観戦をする方向にシフトするのも楽しみ方の1つですが,なかなか生涯現役とはいきません。
ですが,居合の基本は独り稽古。
1つの形にかかる時間は数十秒ほどで,余り激しい動きはしないですし,試合も6分以内に決着がつくので延長になることはありません。
これって,体力に応じて自分のペースで稽古できるということでもあるし,ず~~~っと続けられるということなんです。これは,すごいことですよ。
若い時から修行している人は老後も続けられますし,年を取ってから入門しても十分上達できます。
最近は,定年後のセカンドライフについて取り沙汰されることも多くなってきました。
無趣味な人の老後は,張り合いがなかったり,人との接点が希薄になったりなどで,大変なことが多いそうです。
僕の父親も定年しているのですが,やることがなくて暇そうにしてます。
こういった虚無感に陥らないためにも,老後の趣味に,居合はすごく向いていると思います。
実際,僕の稽古仲間には,80歳過ぎのお爺さんがいますが,いつ見てもハツラツとしていて楽しそうです。
この方は,病気により胃の大部分を切除していたりしますが,体力的にはなんの問題もなく居合の稽古を続けています。
僕もこの人を見習って,生涯現役で修行し続けるつもりです。
また,年齢や性別を選ばないという点は,若い人からしてみれば,学校や職場では知り合えない,幅広い年齢や経歴の人と友達になれる機会でもあるわけです。
僕の場合は,プロのカメラマンやピアノの講師,アマチュアジャズ楽団の人や調理師,現役自衛官や研究職の人など,居合をやっていなければ絶対に関わることはなかっただろう方たちとも知り合いになることができました。
居合の直接的なメリットではありませんが,このような出会いがあるかもしれないのは,とても面白い点ですよね。
さて,ここまで良い点ばかり挙げてきましたが,きちんと悪いところも説明していきます。
心して聞いてくださいね。
最初に挙げられるデメリットとしては,初期費用がやや高いということです。
場合によっては,継続費用が高くつくこともあります。
まず,居合を始める際に,必要になる道具は大体以下の通りです。
名称 | 金額 |
---|---|
刀(模擬刀) | 30,000~100,000円 |
稽古着(上衣,袴) | 8,000~20,000円 |
帯 | 2,000~20,000円 |
膝サポーター | 1,000~5,000円 |
刀用キャリーケース | 3,000~13,000円 |
手入れ道具(油,拭い用の布) | 1,000~2,000円 |
合計 | 45,000~160,000円 |
これらの道具を一通り揃えるためには,大体『5万~10万円』程度かかります。
気軽に始めるには,ちょっと足踏みしてしまう金額ですよね。
模擬刀ではなく,真剣を使うとなると更に金額は跳ね上がります。
道具を貸し出してくれる道場であれば,初期費用はもっと安く済みます。
ですが,本格的に続けるとなれば自分の道具が欲しくなるでしょうから,将来的には、これぐらいの出費が発生することは覚えておいた方がいいでしょう。
また,道場によっては高額な稽古道具を売りつけるところがあると言う噂も聞きます。
そのような所が本当にあるのかわかりませんが,怪しげな商売に巻き込まれたりしないよう,気を配っておいて損はないと思います。
その他にも,道場に払う月謝,連盟に所属する場合には年会費や昇段審査料など,何かとランニングコストがかかります。
長く続けるつもりであれば,自分の経済状況や価値観と照らし合わせ,適正な価格の道場や団体を選びましょう。
他のデメリットには,自己満足に陥りやすいということが挙げられます。
ここまで,何回も話に出てきましたが,居合の練習は仮想敵に対する形稽古が基本です。
ですが,どんなにリアルに想像したとしても,仮想敵に実際に切られて,やっつけられることはありません。
他の格闘技や剣道なら,至らないところがあれば相手から打ち込まれて,ボッコボコにされて自分の欠点に気づけます。
しかし,多くの居合の稽古では,実際の相手と対峙しないため,間違った技術で練習をしていても気づくことありません。
実戦的でない動きになってしまうことがあるのです。
特に,見栄えや派手さにこだわってしまって,実戦性がなくなった剣術を『華法剣法』と揶揄したりもしますが,居合が陥りやすい問題の一つです。
また,伝統というものに悪い意味で縛られて,表面的な動作や形だけを伝えて,その意味や使い方・応用法などを考えたり発想しようとする人が少ない傾向にある気もしますね。
僕も注意していることですが,なんとも心許ないことです。
未だ修行中の身なので慢心しないように気を付けます。
今から話すのは,僕が師匠から聞いた話で,実戦的でない動きをしてしまったという意味での悪い例です。
とある居合の先生のAさんが,相手の刀を受け流す練習をしていました。
Aさんは,自分の刀を鞘から抜き切らないで受け流した方がかっこいいと思ったらしく,ずっとそのような方法で稽古していたそうです。
ある時,受け流す技を実演してみようと,Aさんは,弟子に木刀で打ち込ませてみました。
自信満々に木刀を受けたAさんでしたが,流れた木刀は刀に沿って滑り落ち,鞘を握ったAさんの左手を直撃して…………。
実際にこんな話があったそうです。
慢心とは恐るべき敵ですね!
気を付けましょう。
最後に挙げるデメリットは,高圧的な態度の人や頭の固い人が,それなりにいるということです。
これはちょっと言いにくい話ではあるのですが,今から居合を始める人への注意喚起の意味も込めて,正直に話しておきます。
居合などの日本の芸事の場合,ある程度の高段者になってくると,周りからは『先生』と敬称を付けられるようになります。
そして,他の人に指導を行う機会が増えると,先生と呼ばれる人達の一部は自分が偉い人間になったのだと錯覚してしまうようです。
要するに,
「俺があいつ等に教えてやっている。俺は先生と呼ばれるくらいすごいんだ。俺が上で,周りの連中は下だ。俺の考えがいつでも正しくて,俺に従わない奴は全員間違ってるんだ。」
みたいな感じに見える人が,たま~~~にいます。
うん,たま~にね。
自分の周りの人や弟子を,手下や子分のように扱う人がいるということですね。
自分が気に入らない弟子を次々と破門するような人や,根拠もなしに他人の考えを頭ごなしに否定するような人達。
残念ながら,こういう人が一定数いることは確かです。
そして,このような人達であっても,まだ腕前や技術が確かなものであれば幾分かマシなのですが,居合って実際に切り合いはしないので,本当に強いのか口だけ名人なのか客観的には証明しづらいです。
さらにこれらのデメリットとが複合されると,もう目も当てられません。
つまり,
- 実戦では役に立たない技術を,
- 高圧的な態度で教えてくる人間に対し,
- 一生涯ご機嫌を伺いをしつつ,
- 高いお金を支払い続けなければならない。
ということです。
さっき説明した,生涯続けられるというメリットも,完全なデメリットに変貌するほどの最悪な拷問になってしまいます。
でも逆に言えば,道場選びさえ失敗しなければ,この記事で挙げたデメリットは,ほぼ回避できるというわけです。
失敗しにくい道場選びについては,後日,別記事を作るので,少々お待ち下さい。
幸いなことに,僕の周りには、尊敬できる方や親しみの持てる方ばかりがいます。本当にありがたいことです。
道場選びは慎重に行わないといけません。
さて,長々と語った居合のメリットとデメリットについてですが,まとめるとこんな感じです。
- 時間や場所に縛られず自宅でも稽古できる
- 身体能力の維持や健康の増進に良い
- 競技寿命が長いので老後も継続できる
- 幅広い層の人と交友できる
- 初期費用がやや高い
- 実戦的な技術を学べない可能性がある
- 高圧的な態度の人が一定数いる
- 道場選びを間違えると地獄
まとめ
いかがだったでしょうか?
かなりザックリとまとめたつもりですが,だいぶ長い記事になっていました。
でも,全く何も知らなかったという方でも,居合について,ある程度わかっていただけたのではないかと思います。
- 鞘から刀を抜きながら敵を切って,倒した後に鞘に戻す世界的に珍しい戦闘スタイル
- 本物の刀を使って稽古することもできる
- 大昔からの流派や業が今でも修行されている
- 老若男女に関係なく鍛錬できる
こんな特徴を持つ,伝統武術である『居合』に少しでも興味が湧いたという人がいれば嬉しいです。
今後このブログでは,居合・剣術の技術や用語の説明,昔の剣豪や流派などの紹介をしていきたいと思います。
気になる方は,更新をお待ちください。
それでは今日もありがとうございました。
…………残心ッ!!
- e-Gov法令検索『銃砲刀剣類所持等取締法』
(https://elaws.e-gov.go.jp/help/) - 全日本剣道連盟『居合道試合・審判規則/同細則』
(https://www.kendo.or.jp/wp/wp-content/themes/kendo/assets/library/pdf/iaido-shiai_regulations.pdf) - 水色『水色式大和守安定ver1.03』
(https://bowlroll.net/file/147745) - ゆづき(万年寝不足-別館)『お月見和室』
(http://nebusokummd.blog.shinobi.jp/)